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食べ物と性格
<魚の摂取とうつ病>
中国・大連医科大学の研究では、自殺未遂で大連の病院へ運び込まれた100名の患者と、故意ではない事故で怪我をした患者100名を混合し、血液中のEPA濃度が高い順に50名ずつに区切って4つのグループに分けた。その結果、自殺未遂者の占める割合は、EPA濃度が最も低いグループでは74%に達していたのに対して、EPA濃度が最も高いグループでは26%しかいなかった。このことから、魚(EPAを含む)の摂取量が少ないと自殺未遂を起こしやすくなることが推測された。その理由として、EPAの血中濃度が低いとセロトニン作動性ニューロンを活性化できなくなり、衝動性の亢進やうつ病が起こりやすくなると推測される。
魚の摂取は、血液中のEPA濃度を高め、うつ病や自殺未遂を防ぐ効果があると言われています。しかし、「魚の摂取が昔から多い日本人は、なぜ自殺者が多いのか」という問題です。これは、専門家の間では"ジャパニーズパラドックス"とも言われています。その理由としてまず考えられるのは、脳内ホルモン(神経伝達物質)であるセロトニンの分泌量には遺伝的な要因もあり、日本人は「セロトニンの分泌量が少ない民族」であるからだろう、という推論です。では日本人のうち、どのくらいの人がセロトニン分泌量が少ない傾向にあるかというと約65%、つまり3人に2人は自殺しやすい遺伝子を持っているということ。一方、アメリカ人の場合は18%とわずか5人に1人です。アメリカ人がどちらかというと楽観主義的なのは、脳内セロトニン分泌量が豊富だからかもしれません。
魚の摂取以外にセロトニン分泌を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。まず朝は早起きして、太陽の光を十分に浴びることです。目の網膜に入った光の信号は、縫線核にあるセロトニン神経に刺激を与えて分泌を高める同時に「体内時計を調節する働き」を担っています。セロトニン神経の活性化には、太陽の光の10分の1、つまり3千ルクス以上は必要ですから、400ルクス程度の蛍光灯の光ではぜんぜん足りません。朝起きたらば、カーテンを開けて太陽の日差しを浴びましょう。できれば、散歩に出かけ、30分も歩けば十分です。
セロトニン神経は、座禅や瞑想によっても活性化されます。よくスポーツ選手などで、試合前に部屋にこもって座禅や瞑想を行う人がいますが、腹式呼吸をすることでセロトニン分泌が高まりやすくなります。また野球の試合中、ガムをクチャクチャ噛んでいる選手がいますが、よく噛むことによってもセロトニン分泌が高まり、緊張を解きほぐしてリラックス効果をもたらします。
<DHAとセロトニン>
脳内には、セロトニンを利用している神経細胞、すなわちセロトニン作動性ニューロンが存在します。このニューロンでセロトニンが利用されますと「5HIAA(5-ハイドロキシインドール酢酸)」という物質が生成されますので、脊髄液中の5HIAAを測定することで脳内セロトニンの利用率がわかります。凶悪な犯罪者では「5HIAA」が少ないことが知られていますので、脳内のセロトニンが少なく、セロトニン作動性ニューロンの働きが悪いと攻撃性が高まるのではないという報告があります。
魚の油に含まれるDHAの血中濃度が低い人は「5HIAAが少ない傾向にある」ことが知られています。そこで富山医科薬科大学の浜崎智仁教授は、2ヶ月間に渡って医学部の学生にDHAを摂取してもらったところ、ストレスホルモンである「ノルアドレナリンの量が減少した」という結果が出ました。また2000年に開催された国際脂肪酸・脂質学会では、フィンランドの学者が「週に2回以上魚を食べない人は、そうでない人に比べ自殺企画率が高い」ことを発表し、魚の摂取はうつ病や自殺の予防になるのではないかといわれています。
<コレステロール値が低いと自殺しやすい>
この問題は、3万人を対象にしたオランダでの調査によって明らかにされました。その理由として「コレステロール値と脳内セロトニン量は連動しており、コレステロール値が低い人は、脳内セロトニン量も少ない」としています。またフランスでは、1967〜72年の間に心臓・循環器の危険因子について調査が行われましたが、対象者のうち約5パーセントが1994年までに自殺しました。この自殺率はフランス国内平均の3倍という高率でしたが、特にコレステロール値が急降下した人に自殺が多いことが判明しました。
<亜鉛不足と暴力>
米国イリノイ州で行われた研究によれば、暴力行為で刑務所に収容された男性囚人は、一般の男性に比べて「血液中の亜鉛濃度が低い傾向にある」ということです。
ストレスが加わると体内ではそれに対抗する物質が作られますが、その一つが肝臓で作られるメタロチオネインというたんぱく質。このたんぱく質は、ストレスに対する感受性を下げて、緊張や不安を和らげる働きがありますが、メタロチオネインの合成に欠かせないのが亜鉛です。亜鉛不足の結果、メタロチオネインの合成がうまくいかず、ストレスに対して過敏となっている可能性があり、最近の若者がキレやすくなったのも実は亜鉛不足が一因しているのかもしれません。
<キレる小学生が増加>
文部科学省の担当者は、小学校で校内暴力が増加している理由として、感情のコントロールがきかない子供が増加傾向にあり、忍耐力や自己表現力、人間関係を築く力が低下していることが原因と指摘しています。その一方で小児医療に携わる医師たちからは、「低血糖症も要因の一つ」という意見が出されています。
低血糖とは「血液中の血糖値が低下してしまうこと」で、脳のエネルギー源であるブトウ糖が枯渇した状態が長く続くと、動機、貧血、無気力、めまい、頭痛、不安感、非社会的行動、集中力の欠如、うつといった症状が出てきます。さらに脳は低血糖状態を補うために、アドレナリンというホルモンを分泌して糖の分解を促進し血糖を維持しようとします。しかし、アドレナリンが過剰分泌されると、興奮状態になって攻撃的になってしまいます。大人でも、空腹状態になるとイライラして怒りっぽくなる現象と同じです。
血糖値の特徴として、その値が急激に上昇すると下がるときもまた急激であること。ご飯などのでんぷん類は、血糖値をゆっくりと上昇させまず。しかし、炭酸飲料、スナック菓子類、ファストフード類の取り過ぎは、血糖値の上昇下降を急激にさせて、低血糖状態を作りやすくするというわけです。
<精神障害に良いハーブ>
うつ病に良いハーブというと"西洋オトギリソウ"(セントジョーンズウォート)が最も有名です。ヨーロッパ原産オトギリソウ科の多年草植物で、有効成分のヒペリシンは「MAO(モノアミンオキシダーゼ)を阻害し、脳内セロトニン活性を高める作用がある」ことが知られています。このため「うつ状態を改善する」などの目的で使用され、軽度・中等度のうつ状態に対しては、ヒトでの有効性が示唆され、ドイツのコミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)は、うつ状態に対する使用を承認していています。摂取の目安量は、抽出物として900mg/日ぐらい。
注意点としては、薬物代謝酵素[チトクロムP450、特にサブタイプであるCYP3A4及びCYP1A2)]が誘導され、インジナビル(抗HIV薬)、ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、ワーファリン(血液凝固防止薬)、経口避妊薬などの薬の効果が減少する可能性があり、医薬品服用者は注意が必要です。またヒペリシンの多量摂取により、日光皮膚炎などの光過敏症を引き起こすことがあります。
"バレリアン"(西洋カノコソウ)は、ヨーロッパ原産の多年草植物の一つです。その根は、1800年代中頃から北米及びヨーロッパで情緒不安や神経性睡眠障害の治療に広く使用され、「19世紀のバリウム」とも呼ばれていました。根から抽出したエキスは、バレレン酸または吉草酸を0.3%含有しており、400〜900mg(ハーブとして1.5〜3gに相当)を就寝前に摂取すると「睡眠の質を高める」ということで使用されています。コミッションE(ドイツの薬用植物の評価委員会)でも「不眠症」「精神不安」などに対する使用を承認しています。
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